イエナプランについて説明する上で、「20の基本原則」が中心的役割を担います。
20の基本原則は、1990年代に、ケース・ボットと、ケース・フルーフデンヒルによって、イエナプラン・スクールのためにつくられました。
8つのミニマムがその基礎となっています。
20の基本原則
すべてのイエナプラン・スクールは、この20の基本原則を、学校の要覧の中に組み込まなければなりません。スクールにおけるあらゆる活動の指針となるものです。
20の基本原則は、3つの部分から成ります。
- 人について
- 社会について
- 学校について
原則の1~5が人について、6~10が社会について、そして11~20が学校についてという構成になっています。
基本原則 ー人についてー
原則1
どんな人も世界にたった1人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も1人1人が他の人や物によっては取り替えることのできないかけがえのない価値をもっています。
原則2
どの人も自分らしく成長する権利をもっています。自分らしく成長する、というのは、次のようなことを前提にしています。
つまり、誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使って物事について判断する気持ちをもてること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。
自分らしく成長していく権利は、人種や国籍、性別、(同性愛であるとか同性愛であるなどの)その人がもっている性的な傾向、生まれついた社会的背景、宗教や信条、または、何らかの障害をもっているかどうかなどによって絶対に左右されるものであってはなりません。
原則3
どの人も自分らしく成長するためには、次のようなものと、その人だけにしかない特別の関係をもっています。つまり、他の人々との関係、自然や文化について実際に感じたり触れたりすることのできるものとの関係、また、感じたり触れたりすることはできないけれども現実であると認めるものとの関係です。
原則4
どの人も、いつも、その人だけに独特のひとまとまりの人格をもった人間として承認され、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
原則5
どの人も、文化の担い手として、また、文化の改革者として受け容れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
基本原則 ー社会についてー
原則6
私たちは皆、それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重し合う社会を作っていかなければなりません。
原則7
私たちは皆、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会を作っていかなければなりません。
原則8
私たちは皆、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いや、それぞれの人が成長したり、変化したりしていくことを受け容れる社会を作っていかなくてはなりません。
原則9
私たちは皆、地球と世界とを大事にし、また、注意深く守っていく社会を作っていかなくてはなりません。
原則10
私たちは皆、自然の恵みと文化の恵みを、未来に生きる人たちのために、責任をもって使うような社会を作っていかなくてはなりません。
基本原則 ー学校についてー
原則11
学校とは、そこに関わっている人たちすべてにとって、独立した、しかも協働して作る組織です。学校は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです。
原則12
学校で働く大人たちは、1から10までの原則を子どもたちの学びの出発点として仕事をします。
原則13
学校で教えられる教育の内容は、子どもたちが実際に生きている暮らしの世界と、(知識や感情を通じて得られる)経験世界とから、そしてまた、人や社会の発展にいとって大切な手段であると考えられる、私たちの社会がもっている大切な文化の恵みの中から引き出されます。
原則14
学校では、教育活動は、子ども学的によく考えられた道具を用いて、子ども学的によく考えられた環境を用意した上で行います。
原則15
学校では、教育活動は、対話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本的な活動が、交互にリズミカルにあらわれるという形で行われます。
原則16
学校では、子どもたちがお互いに学び合ったり助け合ったりすることができるように、年齢や発達の程度の違いのある子どもたちを慎重に検討して組み合わせたグループを作ります。
原則17
学校では、子どもが1人でやれる遊びや学習と、グループリーダーが指示したり指導したりする学習とがお互いに補いあうように交互に行われます。グループリーダーが指示したり指導したりする学習は、特に、レベルの向上を目的としています。1人でやる学習でも、グループリーダーから指示や指導を受けて行う学習でも、何よりも、子ども自身の学びへの意欲が重要な役割を果たします。
原則18
学校では、学習の基本である、経験すること、発見すること、探求することなどと共に、ワールドオリエンテーションという活動が中心的な位置を占めます。
原則19
学校では、子どもの行動や成績について評価する時には、できるだけ、それぞれの子どもの成長の過程がどうであるかという観点から、また、それぞれの子ども自身と話し合いをするという形で行われます。
原則20
学校では、何かを変えたりより良いものにしたりする、というのは、常日頃からいつでも続けて行わなければならないことです。そのためには、実際にやってみることと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度をもっていなくてはなりません。
イエナプランスクールと日本の一般的な学校との違い
ここまで見てきた20の原則に照らしたときに、日本の一般的な学校(以降「日本の学校」)との違いが浮き彫りになります。(ここでは、あくまで違いであって、どちらが良いということを言っているわけではありません)
自分らしく成長する権利
原則2では、誰もが「自分らしく成長する権利」を持っているとされています。
なるほど、それはその通りだなと思いますし、日本の学校もそれは否定していないと思います。
原則2では続けて、自分らしく成長する権利は「障害をもっているかどうかなどによって」左右されてはいけないとされています。
日本の学校は、未だに、障害を持った子どもを区別して、特別支援学級に入れていて、国連からも是正勧告が出されています。
保護者から求められるからだということを言っていたりしますが、
保護者が求めることが、必ずしも、その子どものニーズを代弁できているかというとそうではないですし、当の保護者だって、通常の学級で分け隔てなく、友だちに助けてもらいながら、受ける姿を観たら、そっちの方がいいと言うのではないでしょうか。
そんなこと無理だと思われるかもしれませんが、イエナプラン・スクールが普及しているオランダでは、耳の聞こえない子どもが通常学級で、他の子どもに助けられながら受講する姿は、ごくごく一般的だと言います。
学校は協働して作る組織
原則11では、学校のあり方について、「協働して作る組織」だとされています。
イエナプラン・スクールでは、保護者も学校運営に積極的に関わります。
子どもの教育の責任者は保護者自身ですから、当たり前と言えば当たり前なんですが、PTAをなすりつけ合うようなマインドの日本人からすると、少々億劫かもしれません。
異学年グループで学び合い助け合う
原則16で、イエナプラン・スクールは、子どもたちが学び合い、助け合うように、年齢や発達の程度が違う子どもたちを組み合わせてグループを作るとあります。
これは日本の学校とは大きく異なります。多くの日本の学校では、学年毎にクラスが編成され、横並びで進みます。また授業中に話すことは許されず、モクモクと自分の学習に取り組みます。この風景は昭和の時代から受け継がれた固定的なものです。
1人でやれることと指示・指導されることのミックス
原則17で、イエナプラン・スクールでは、「一人でやれる遊びや学習」と、「グループリーダー(担任の先生)が指示したり指導したりする学習」とがお互いに補いあうように交互に行われるとされます。
日本の学校ではそのほとんどが後者の学びで、先生が休みなどの特別な場合に、「自習」として前者が行われます。ここでも話し合うことは許されず、モクモクと学習しますが、普段から慣れていないので、あまり集中できず、意欲的に学ぶ人は少ないのが実態だと思います。
他人と比べるのではなく、その子自身の過去と比べる
日本の学校では、クラスの中で、秀でているかどうか、あるいは”一般的な能力”と比べて、秀でているかどうかで、評価され、とくに子どもに対してフィードバックはされません。
一方で、イエナプラン・スクールでは、原則19にある通り、「それぞれの子どもの成長の過程がどうであるか」という観点で評価します。また、評価は、「子ども自身と話し合いをするという形で行われます」。
参考文献
- 「イエナプラン 共に生きることを学ぶ学校」著フレーク・フェルトハウズ、ヒューバット・ウィンタース
- 「公教育をイチから考えよう」著リヒテルズ直子、苫野一徳
- 日本イエナプラン教育協会 http://japanjenaplan.org/jenaplan/rule/